トランプ現象-江崎道郎氏の分析と日本の課題

 12月17日、「士気の集い」による江崎道郎氏の講演会がアカデミー音羽でありました。同氏は昭和37年生まれ、九州大学文学部哲学科卒、月刊誌『祖国と青年』編集長を経て日本会議で政策研究の専任研究員、国会議員の政策スタッフを勤め、現在評論家。専門は安全保障、インテリジェンス、近現代史研究。主要著書に直近では「アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄」(祥伝社新書)、「マスコミが報じないトランプ台頭の秘密」などがあります。

 今回の講演では、トランプが米次期大統領に当選した背景の分析と我が国の課題を、大変分かり易くまた鋭く構造的にえぐり出していました。我が国のマスメディアが全くと言ってよいほど報じていない内容のものであったと思います。国民はメディアの報道だけでは本質は何も分からない、政治家も不勉強で分かっていないとは氏の慨嘆ですが、2017年、世界はパラダイムシフトが予想される中で、本質を理解しない中での我が国の戦略とは、見当違いに進み危ういものになります。その意味で本日の氏の講演内容が世に広く知られるようになって欲しいものです。
 なお、氏はチャンネル・クララで毎週「江崎道郎の備忘録」を放映されていますので、詳しくはそちらをご覧ください。

           1612江崎道郎氏 

《講演要旨》
1.経緯

・日本会議でまた政治家のスタッフとして外交問題を研究する中で、アメリカ陸海空軍のインテリジェント・オフィサー(情報将校)との付き合いがあった。彼らから「トランプの動きは注目しておいた方がよい」と助言を受け、トランプを押しているアメリカ内部の状況を分析して、28年10月、「マスコミが報道しないトランプ台頭の秘密」を上梓した。
・アメリカのマスメディアの主流は、驚くほどリベラルに偏っており、日本のメディアはそれを受け流しているだけだ。朝日だけを読んでいては実態は何も分からないと同じように、アメリカのメディアの垂れ流しだけでは、真実は分からない
・自分は予想屋ではない。あくまで分析の話である。

2.基本的視点
(1)対日戦略において、アメリカは一枚板ではない。ストロング・ジャパン派とウィーク・ジャパン派がいる。
・ストロング・ジャパン派:アジア太平洋軍の人達。日本が弱いと自分達が真っ先にやられる。中国に対する盾として、日本に強くなって欲しい。
・ウィーク・ジャパン派:国務省や民主党の大半はこちら。
(2)アメリカのマスメディアはサヨクが多数派である
・アメリカには、日本で言えば朝日新聞と赤旗ばかりで産経がない。CNNは「Comunist News Network」と言われている。この実態を日本人は知らない。
(3)世界を相手にしているアメリカは、敵と味方を間違える天才である
・共産主義と戦っていた日本を敵とし、毛沢東を支援して中国大陸の共産化に尽力した。等々。
・アメリカは一々細かいところでは日本を知らない。自由民主党の「自由」は、アメリカではサヨクリベラルの意である。一般のアメリカ人は日本人と中国人、インドネシア人の区別がつかない。
・日本の状況は、アメリカには伝わらない。尖閣での漁船衝突事件は、中国のプロパガンダにより、日本が挑発したことになっている。

3.トランプ勝利の要因
(1)オバマ政権の失政
①中間層の経済低迷

・1960~70年代は、企業は利益の4割を設備投資、研究開発、賃金上昇に配分し、株主への配分は5割であった。
・しかしオバマ政権になって現在、株主への配分が9割以上、設備投資・研究開発投資・賃金への配分は合計して6%程度に極端に低くなってしまった。
・また、オバマケアにより、企業の対従業員健康保険料の負担が急増し、負担しきれない企業は、正社員の非正社員化をはかった。
・それらのため、企業の活力は失われ、中間層は没落した。

②「アメリカ封じ込め政策」
・オバマの政策は、「アメリカ封じ込め政策」と俗に言われている。軍事予算を著しく削った。特に致命的なのは、インテリジェンスを軽視したことであり、情報能力がすさまじい勢いで低下した。
・その結果として、特にアジア・太平洋においては、中国による南シナ海侵略を容認してしまった。
侵略を許さないという意思を欠いていた。スプラトリーなどの埋め立て用土砂は、インドネシア華僑の協力によって行われた。土砂運搬船に対して、軍艦を遊弋させ威圧するだけでも抑止できたはずだ。

③軍OBのトランプ支持
・堪り兼ねた軍OB88人がトランプ支持の声明を出した。指示命令系統の軍そのものは政治的動きは出来ないし、OBでも抑制が働く。これは異常な状況であった。

(2)アメリカ社会の閉塞感
①ホワイトギルド(白人であることの罪)への白人の反発
・メイフラワー号以降の歴史において、白人はインディアンを殺し尽くした。また人権を無視した黒人奴隷制による搾取により、経済的利益を得た。白人達は酷いことをしたのだから、これからは黒人やヒスパニックのために働かなければならない、との風潮が社会を覆うようになった。
・特に白人の子供達に自虐思想を植え付けている。「あなたたちが豊かなのは黒人奴隷から搾取したからだ。そんな罪深い富で暮らしているのだから、黒人の子供達にもっと配慮すべきだ」と教え込む。
・キリスト教は、奴隷制度をもたらした悪魔の宗教であるとして、「メリー・クリスマス」と祝えば、人種差別主義者と言われ、イスラムに対する冒涜と言われる。
・企業が人を解雇しなければならない時、黒人やヒスパニックを解雇すると、人種差別だと指弾される。従って解雇は白人からしなければならなくなった
トランプは、この自虐思想の束縛から解放してくれる救世主と捉えられた。

②ポリティカル・コレクトレスの蔓延
 人種・宗教・性別などの違いによる偏見・差別をなくす建前が過度に強調され、社会的におかしな現象が生じている。男女平等の建前が進んで、トイレまで男女区別無しが出現、最高裁は同性結婚を認めたなど、伝統的な家族制度が軽視される。マイノリティへの批判はヘイトスピーチと言われる。かくして言論の自由が圧迫されている。草の根保守の鬱憤が溜まっている。

③不法移民都市サンクチャリ・シティ(聖域都市)の存在
連邦法では、不法移民は強制送還できる。しかし「連邦法を適用しない」と宣言した州や自治体では、そこに逃げ込めば不法移民も保護され強制送還されない。そのようなサンクチャリ・シティが、ロス、ニューヨーク、ワシントンDC等30数カ所ある。不法移民が逃げ込めば、警察は何も出来ない。
・ヒスパニック、チャイナ、コリアンが逃げ込み多数派を形成する。コリアンの慰安婦少女像の活動は、ここを拠点にしている。
・トランプはこの問題に切り込もうとしている。

(3)ヒラリーの不人気
①国務長官時代の私用メール問題とヒラリーの暗部
・ヒラリーには外国からの献金問題やベンガジ事件で黒い噂がいくらでもある。政治的裏工作などの部下への指示も私用メールで行っている。そこには国家機密もあるが私用メールは盗まれるのは当たり前だ。ヒラリーは分かってやっていた。問題は何故私用メールにしたのかだ。
・国民にはヒラリーは金儲けのために国を売っている、不正直者だとのイメージがある。
・FBIが問題提起をしたのは軍の突き上げがあったからだ。何故か。ヒラリーが当選すれば、問題を議会で追及されないように、中東で戦争を起こすのではないかと言われていた。軍は戦争などしたくないから。
②ヒラリーは貧しい人たちに厳しいと言うイメージがあり、労組の動きが鈍かった。
③ヒラリー自身の体調が悪く選挙運動量が低下し、選挙演説も下手だった。

(4)トランプ人気の元は何か
①知名度抜群
・お茶の間のテレビの人気者。日本で言えばビートたけし。
②金持ちの成功者
③庶民の味方

・ホテル事業は地元(警察、消防、交通、商店街等)との関係が大事であり、商売として庶民を理解していた。→寂れた鉄鋼業のウィスコンシン州では「数兆円の軍艦建造、使う鉄鋼は全てUSA製」とぶって地元の軍のOBと庶民の琴線に訴えた。  
④草の根保守と最高裁人事
草の根保守を牽引してきた保守のチャンピオン、フィリス・シェラフリー女史が「トランプを応援せよ」との本を上梓し、共和党支持者、草の根保守にトランプ支持を訴えた。シェラフリーは、家族重視、堕胎反対であり、また日米戦争におけるルーズベルトの責任を厳しく批判し、日米戦争はルーズベルトの陰謀、ヤルタ密約は間違いだと述べている人で、この9月5日亡くなった。その最後の仕事がトランプ支持の檄であった。
・アメリカの最高裁は日本より遙かに権威と権限を持つ。その判事は9人で、保守5人、サヨク4人であった。この2月、保守の一人が死亡した。新たな任命に対してシェラフリー女史は、絶対にサヨクに判事の座を渡してはならない、そのために是非ともトランプを当選させようと訴えた。遺言であった。
 
4.トランプの100日計画
 トランプは10月下旬、「政権移行100日計画」を発表した。要点は以下。
①不法移民は1000万人はいる。うち犯罪歴のある移民は200万人、これらの移民は追放する。
②テロのある地域からの移民は停止する。
③中国人は、コスト削減のために不法移民を工場に閉じ込めて労働搾取をしている。何故取り締まりが出来ないか。中国のロビイストがホワイトハウスの役人達を取り込んでいるからだ。外国を利するロビー活動を禁止する。
④中国が為替操作国であり、不当な為替操作は行えないようにする。
⑤TPPは離脱する。
⑥オバマ政権の投資抑制を撤回し、エネルギーとインフラ投資を進める。
⑦最高裁判事の後任を適切に決める。
⑧連邦政府から資金援助を受けるサンクチャリ・シティを廃止する。
オバマケアを廃止し、代替プランを作成する。
海外生産拠点の国内回帰をはかり、労働者の雇用を確保する。
などなど。

5.日本の問題
①外務省はアメリカ留学組を主として、アメリカの政府、シンクタンクなどのリベラル系とだけ付き合う傾向があり、情報が偏っている。
②日本の安全保障専門家は、アメリカのネオコン系との付き合いが多く、対米従属体制維持に向けた議論を進めがちである。保守系との付き合いは薄い。ちなみに
・ネオコン系:正義、民主主義の名の下に対外干渉を行い、世界各地で紛争を起こしている。
・保守系:世界各地のバランス・オブ・パワーを確保し、同盟国強化を重視、対外軍事介入は控える。トランプは保守系である。
③安倍首相、外務省以外(財務省、経団連、その他)で、対米ルートを開拓する必要がある。
④その他(重要な課題があるが今は言えない。これが大きい)

6.日本の課題
①日米のサヨクメディアによる日米分断工作に対して、トランプに対する正確な分析体制を如何に構築するか。
・外務省の対米分析の学問的枠組みの構築
・経済面での米中共存論への対抗
  (RCEP、AIIPにトランプが入っていく?)
・日米分断工作に荷担する警戒心なき(?)自主防衛論への対抗
→アジア版NATOなど共同防衛体制が必要。

②パンダ・ハガー(親中派)からトランプの元でドラゴン・スレイヤー(反中派)へ
・中国に軍事的冒険をさせないために、「強いアメリカで戦争を抑止する」、そのためにアメリカは、国防費をGDP比3.3→4%に引き上げようとしている。日本も当然今の1%を2%に引き上げることが要求される。トランプに要求されたから行うのか。
・安倍首相は対中戦略として「セキュリティ・ダイヤモンド構想」を発表し、外交的努力も払っている。防衛費2%の根拠は、この戦略実現のためではないか。
・そのためにも、デフレ脱却し経済成長をはかる必要がある。
・アメリカ下院軍事委員会ランディ・フォーブス委員長(共和党)の演説「尖閣問題で日本を支持することが最大の対中抑止だ。」しかし、当事者の日本が動かなければアメリカは動かない。

7.我々は何をすべきか
・政府に頼む、アメリカに頼むと言う話をしているだけではだめだ。民間ベースで出来ることをやろう。サヨクの宣伝に打ち勝とう。外務省に頼らず、国際社会の中で親日の味方を発掘してネットワークを作ろう。成長する強い経済が必要だ。デフレ脱却に声を上げよう。

以上
(うまし太郎)
スポンサーサイト
未分類 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2016/12/22 21:41
コメント:

管理者のみに表示