リムパック、日本の「空母」の偉容

 7月1日、集団的自衛権行使を容認するための憲法解釈の変更が閣議決定されました。安倍首相は記者会見で、行使容認の意義について、「万全の備えをすること自体が日本に戦争を仕掛けようとする企みを挫く大きな力を持つ」と述べました。

●リムパック2014がスタート
 折から2年ごとにアメリカ海軍が主催して実施される多国籍軍による海洋軍事訓練「リムパック(環太平洋合同演習)2014」が6月26日から8月1日にかけて開始されました。今年は22カ国から海軍艦艇、航空機、水陸両用戦部隊などが参加して、ハワイのパールハーバー米海軍基地を本拠地として、ハワイ諸島や南カリフォルニアなどで、様々な海洋軍事合同訓練が実施されています。

 リムパックが初めて開催されたのは1971年です。もともとは旧ソ連を仮想敵国に環太平洋のアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの合同訓練として開始、ソ連崩壊後はより多くの国が加わり、各国の連携に主眼を置いた演習となっています。

 日本は1980年から参加しました。リムパックは多国間の合同演習ですから、当然、集団的自衛権が前提となっていますが、当時は憲法9条が禁じる集団的自衛権の行使に抵触するのではないかとの議論が国会でなされていました。そのため日本は建前上、武力行使を前提としない海賊対処や災害救援などに限定して参加してきました。ここでも集団的自衛権行使の問題が、軍事組織としての当然の練度向上のための活動の足かせになっていたのです。

 しかしながら、本年の海上自衛隊と陸上自衛隊のリムパック2014参加に関しては、水陸両用戦の訓練へも本格的に参加するにもかかわらず、集団的自衛権行使反対陣営からはさしたる反対の声が上がっている様子もなく、日本はやっと普通の国になろうとしていると言えます。

 前回の2012年には、ロシアも初参加して22カ国で行われました。中国は長い間招かれなかったのは、リムパックは対中国封じ込めを念頭にしている面があったのかもしれません。それがオバマ政権の招待で今年から初参加しています。そうなるとリムパックは何のための演習かということになります。

 オバマ政権が中国海軍をリムパックに招待した際、様々な憶測と議論が巻き起こりまし。南シナ海や東シナ海における中国海軍による周辺諸国に対する威圧的行動が激しくなっているために、現在も中国海軍のリムパックへの参加へのアメリカの真意や中国が参加した意図などに関して議論がなされています。

 中国側としては、さすがに空母は派遣できないものの(空母まがいで恥ずかしい?)、イージス駆逐艦と新鋭フリゲートにより海上戦闘能力の高さを示し、大型補給艦により遠洋作戦能力を示し、病院船により平和貢献活動への意欲を示す、といったようにアメリカの同盟国・友好諸国に対するアピールが主たる目的であることは明らかです。同時に、中国海軍はアメリカ海軍の本拠地に乗り込んでアメリカ海軍や日本の海上自衛隊と合同訓練するまでに地位が向上したとの宣伝を国内外に発信する意図を有していると思われます。

 一方アメリカでは、いわゆる中国封じ込め政策に賛同しない陣営にとっては、中国を取り込む関与政策の一環として捉えられています。最も封じ込め派においても、中国に対して「アメリカの真意は中国封じ込めではない」という具体的ポーズを取ることによって、中国側からの「封じ込め」に対する批判を避けることができると考える人々もいるでしょう。

 より実務的には、将来、公海上で艦艇や航空機が遭遇した際に起こりうる誤解による不必要な軍事衝突を避けるために、中国海軍とアメリカをはじめとする多国籍の海軍が合同で訓練を実施することで、相互理解を少しでも進展させることが、中国のリムパック参加が持つ重要な意義であるとされているようです。少なくとも政治的な米中接近と考えるのは、第一線の軍レベルにおいては、的外れな考えと言えるようです。

 そうではなく、南シナ海や東シナ海でフィリピンやベトナムなどだけでなく、日本の自衛隊や米海軍に対してまで挑発的かつ危険な行動をするようになってきている中国海軍に対して、リムパックを通してアメリカ海軍の実力を見せつけようという意図があることも否定できません。そのため、アメリカ海軍は空母「ロナルド・レーガン」はじめ24隻の軍艦と多種多様な航空機を200機ほど訓練に投入して、アメリカ海軍力の強大さを見せつけることになっています。

●米側による日本の集団的自衛権への配慮
 日本は昭和55年年から海上自衛隊が参加していましたが、今年からは陸上自衛隊も初めて水陸両用戦訓練に参加することになりました。本年の水陸両用戦訓練は、敵の攻撃拠点を上陸部隊が側面から攻撃する「襲撃」訓練や、敵が陣取る海岸線へ正面から上陸する「強襲」訓練、それに敵地に取り残された自国・友好国市民を海から接近し海と空を経由して救出する非戦闘員救出作戦を想定した総合的訓練などが予定されています。

 一方水陸両用戦合同訓練を主催するアメリカ海兵隊は、日本における集団的自衛権行使や集団安全保障に関する国際的に見て理解し難いほど非常識な慣行を十分に承知しているために、細心の注意を払っているようです。
 例えば、アメリカ、カナダ、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、マレーシア、インドネシア、メキシコ、トンガ、オランダの海兵隊や陸軍部隊ならびに陸上自衛隊部隊が参加して実施される水陸両用戦合同訓練に関する指揮統制系統図や部隊編成表などでは、陸上自衛隊部隊は司令部(アメリカ海兵隊)直属の別動部隊として扱われており、それも“実線”ではなく“点線”で結ばれているとのことです。これにより、陸上自衛隊部隊は、集団的自衛権を行使してはいないし、集団安全保障へも参加していないことになるわけです。最もこのような意味のない苦労は今年で終わりということになるでしょう。

●実は日本は「空母」を持っている
 さて、陸自の本格的参加は、自衛隊ほどの規模を持った軍隊が水陸両用戦訓練に参加するのはどのリムパック参加国にとっても当然のことであるため、さして関心が持たれているわけではありません。それよりも話題になっているのは、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いせ」です。

 ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)とは、ヘリコプターの運用を主眼としていますが、全通甲板と呼ばれる艦の全長にわたる平らな耐熱甲板の飛行甲板を持ち、オスプレイの離着陸は可能、甲板を改造すれば、F-35Bのような短距離離陸・垂直着陸(STOVL)可能な固定翼の戦闘機も運用出来るのではないかといわれているものです。対潜掃討作戦用に設計され、中国の潜水艦から見れば脅威になります。

             140706ヘリ空母いせ

 「いせ」は基準排水量13,950トン、全長197メートル、最大速度30ノット、乗員350名、搭載ヘリ最大11機で、2011年3月就役しました。
 2013年8月に就役した「いずも」は更に巨大で、基準排水量19,500トン、全長248メートルであり、帝国海軍の正規空母「飛龍」の基準排水量17,300トン、全長227メートルを上回ります。中国のメディアは「甲板を改造すれば最新鋭ステレス戦闘機F-35Bを搭載でき、空母級の防衛システムを備えているため、事実上の空母だ」と警戒をしています。

 さてその「いせ」は、リムパック2014に参加する各国艦艇が停泊するパールハーバー米海軍基地の入り口に係留されました。各国の戦闘艦や諸艦艇の中では、アメリカ海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」(排水量101,429トン、全長330メートル)と強襲揚陸艦「ペリリュー」(排水量39,500トン、全長250メートル)に次ぐ巨艦です。その「いせ」は、軍艦旗を堂々と掲げます。

 したがって、全てのリムパック参加艦艇は、基地への出入りに際しては「いせ」を目の当たりにすることになり、海上自衛隊の巨艦に感心せざるを得ない、というのがリムパック2014開会劈頭の状況でした。軍人だけでなく、観光スポットである戦艦ミズーリを訪れる観光客の目にも、真正面に停泊している日本の「空母」の姿が目についてちょっとした話題となっているようです。

 もちろん日本側が「いせ」を目立足せようとして最高の位置を確保したわけではなく、各国軍艦の係留位置はアメリカ海軍によって指定されたのです。しかしこれは、同盟軍である日本の海上自衛隊とともに、中国海軍を威圧しようというアメリカ海軍の意図が働いているとも考えられそうです。そのタイミングで日本は、集団的自衛権行使容認の憲法解釈を変更しました。軍事力はハードとソフト(運用システム)と練度に加えて「行使する意志」がなければ軍事力たり得ません。日本はやっと「意志」を示したのです。これは中国に対しては法を無視するごろつき行為への大きな抑止力になるでしょう。

以上

 (資料)「リムパックで特等席を与えられた自衛隊『いせ』」
      (http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41108)
  「ヘリコプター搭載護衛艦『いずも』は空母に化けるのか」
      (http://www.sanspo.com/geino/news/20130818/pol13081823020000-n1.html)
その他
(うまし太郎) 
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未分類 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2014/07/06 09:48
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